「何も力になんてなれません。」

我が家の脳性麻痺オシャンティー男子17歳。

今日彼は、人生の先輩に出会った。

 

場所は兵庫県西宮市にあるメインストリーム協会。

『どんなに重い障害を持つ人も生き生きと誇りをもって、「社会に主流」メインストリームを堂々と生きていける社会にすること』を目指す、自立生活センターがある。

 

数年前に何度か足を運び、将来について思い悩んだ時、親子で相談に訪れていた。

 

今日は来年高校卒業を控えた彼のその後のビジョンや、居場所(仲間作り)について意見を伺いたく

数年ぶりに足を運んだのである。

 

 

障害者スタッフ、健常者スタッフが入り混じるメインストリーム協会。

 

いつも対応していただく障害者スタッフのKさん。

今回はじめましての同じく障害者スタッフのOさん、Kさん。

 

こちらは彼、春休み中の彼の妹、彼の地域担当社会福祉士Mさん、そして私。

 

和やかな雰囲気で始まった時間は、途中一変する。

 

 

 


「お母さんにばかり話すよね。」

挨拶もそこそこに、

卒業後のビジョン⇒「ユーチューバーになる」「居場所や仲間が欲しい」

を彼に代わって話す。

 

『細かいことは何も決まっていないが、

まずは自分探しも兼ねてユーチューバーとしてパートナーを見つけて色々やっていき、

可能であれば収入を得る事が出来れば最高。

その中で自分らしい生き方を見つけていきたい。

ただ仲間や居場所も欲しい。何か良いアドバイスがあれば頂きたい。』

 

大まかに話すとこんな感じだ。

 

 

「なるほど。」

頷くスタッフの皆さん。

 

会話の中でスタッフの皆さんが彼に尋ねる。

「友達はいるの?」

「休みの日は何をしているの?」

「何をしている時が楽しいの?」

「好きな野球チームはどこ?」

 

そのたび私の顔を見て、私にこたえる彼。

普段の彼の言動を付けたし、通訳する私。

 

ずっと黙ってやり取りを見ていたOさんが口をひらいた。

 

「さっきから見てて思うんだけど、君、お母さんにばかり話すよね。

 

君、友達いないでしょ?

友達作りに高校変えたんでしょう?

なのに何しに学校行ってるの?

 

友達に話しかけられても、答えるのに時間がかかって返事が間に合わない。

だから話しかけるの諦めてしまうとかさ、だったら違う方法でアプローチできるでしょ。

 

 

 

 

甘えてばかりじゃなく、もっと自分からいかないと。

 

出かけたら疲れるから家がいい?

 

そんなこと言ってるから広がらないんじゃないの?

 

コミュニケーションも、家族だけじゃなくて、ヘルパーさんとどんどん出かけて

伝えたい事伝えていって、それも練習でしょ?

 

パラグライダーしたり、いろいろチャレンジするのも悪くないけど

もっと身近なところから動いたほうがいいんじゃないの。

 

厳しいことを言うようですが

今の状態じゃ、何も手伝えることはありません。

 

何も見えてこない。

君にはまだ出来ていないことが沢山ある。」

 

真っ直ぐな言葉が私たち親子を突き刺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

嬉しかった。

 

そんな風に話してくれる人がいる事が。

 

 

だって普段

私が彼に伝いていた事、気が付いてほしかった事、そのままだったから。

 

 

 

 

だけどもしかして泣くんじゃないかと思って彼の顔を見たら、

真っ直ぐな眼差しでOさんを見つめていた。

 

 

彼は

泣きもせず、怒りもせず、笑いもせず、ただじっと聞き入っていた。

Oさんの言葉を一言も聞き漏らすまい。としているように私には見えた。

 

 

「伝わった」

そう思った。

 

 

 

 

 


「また会いに行く」

「よかったら次はお母さんとではなく、ヘルパーさんと来て下さい。また話そう。」

 

「お母さんとだったら、話したいことも話しにくいかもしれないし、」とOさん。

 

『はい。』

 

お決まりの息と一緒に吐き出すような彼の返事に

 

「いい返事できるじゃない。」

 

そう言われ、やっとニヤリと笑った彼。

 

誰から聞くか。

同じことを聞いたとしても、誰から聞くかによって届き方が変わってくる。

 

私じゃない。

私じゃ届かない。

 

でもそれは嬉しいことだ。

 

私が伝えたかったことを、私以外の人が、彼に届く言葉に乗せて伝えてくれることが

めちゃくちゃ嬉しかった。

 

 

 

また一つ、内から外へ。

 

「今月中、Oさんにまた会いに行って来る。」

 

真っ直ぐ前を見て話す彼。

 

 

 

掴みに行け。

ここからは君自身で掴みに行くんだ。

 

君の目で、君の心で、君が必要だと感じた物を

君が選択して、掴むんだ。

 

 

 

「この人って思った人の縁は、離しなや。」

 

帰りの車中、

見守る苦しさを感じながら言葉を絞り出した。

 

 

また一つ、握りしめてくしゃくしゃになっていた母としての役割を

そっと彼の手に託した、春の昼下がり。