
■彼が空から降りたなら
我が家の脳性麻痺オシャンティー男子17歳。
先日パラグライダーに初挑戦した。
8月に問い合わせしてから4ヶ月。
やっと風に恵まれたこの日、ユーピーパラグライダースクールの村井さんから
やっとgoサインが出たのだ。

場所は和歌山県紀の川市。
空は晴れ渡り鳥が飛ぶ。
そんな穏やかな日曜日だった。
午前中は他のお客さんが飛び彼は午後から。
彼がゆったりチャレンジできるよう最後に…と、現場スタッフさんの配慮だった。
待合事務所からの景色

そしていよいよその時はやって来た。
彼と夫。
そして彼の妹。
それから車椅子を作ってくださったご縁で この日駆けつけてくださった
PASさんが現場スタッフさんと車で山頂へ。
私と、彼の10年来の友人はふもとの着地点で待つことにした。
彼がパラグライダーで降りて着た時キャッチする為だ。
彼が空から降りて来た時 スライディングキャッチする、それが私のイメージだ。
ニヤニヤしながら降り立つであろう彼の顔を思い浮かべてはニヤついてしまう。
私もしっかり親バカだ。
彼の妹は直前まで「高いところは苦手なの。」と言っていたのに
空から降りて来られる他の生徒さんを見てどうやら心変わり。
「私も飛ぶわ。」と、山頂へ旅立った。
20分後彼女からFaceTimeの中継が入った。
「にいに、今から飛ぶよー!」

携帯画面いっぱいに映し出された彼は満面の笑み。
「ママ!飛ぶよ!にいにが飛ぶよ!!」
彼と並走しているのか彼女の声も映る景色と一緒に弾んで
次に映った画面には空へと飛び出した彼が映っていた。

画面には小さくなって行く彼と
後ろからは大きな拍手が電話越しに聞こえてきた。
ふと空を見上げたら飛んでいる彼が見える。
風に乗ってふわりふわりとまるで、風の一部のようだった。

空中で弧を描きながらゆっくりと時間を噛みしめるように降りてくる、彼のパラグライダー。
空を眺めながら風になった彼を目で追いかける。
良かったね。
夢が1つ叶ったね。
ただそう思いながら黙って空を眺めていた。
彼が地上に近づいてきた。
よーし!私の出番やな!!
しかしふと周りを見て気がついた。
なんか、いっぱい人が走ってくる。
どこにおったん?ってゆうくらい沢山の人が走ってくる。
え?あれ?
もしかして、彼のキャッチに向かってるの?
この人たちみんな?
私1人でキャッチするイメージはその時吹いた風とともに消え去った。
一瞬迷ってだけど私も走りだす。
名前を呼んだ。
何回も呼んだ。
集まってくれた沢山の人達に紛れて
降りてきた彼の靴先をようやく指先でキャッチした。
おめでとう!よかったね!すごいやん!
地上に降りた彼を、さっきまで全く知らなかった人達が
みんな笑って拍手して
よかった。よかった。
と彼を囲んで話しかけている。
その時私は気がついた。
彼はもう私の手を離れていたんだ。
と。

私が必死でキャッチしなくても
こんなに沢山の人達が集まってくれている。
私がなんとかしなくちゃ。
私が彼を守らなきゃ。
は、もうそろそろ引退かな。
輪の中心で多くの笑顔に囲まれながら
やったー!
うひひひと、微笑む彼を見て
ふと感じた秋晴れの空の下だった。
※今回彼の夢のためにご協力いただいたユーピーパラグライダースクールの皆さま。PASの皆さま。O先生。彼の夢の形をカメラに収めてくださったBSフジ撮影スタッフの皆さま。彼の夢を応援してくださった皆さま。
心より感謝致します。ありがとうございました!!
彼のこの日の様子はBSフジさんで2016年12月24日22時から放送されました。